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プロアスリートの専属トレーナーのように、プロのアーティストを「声の専門家」がサポートできる時代を創る。それが、私たちのミッションです。

Asterisk株式会社代表の沢口千恵です。私たちは日本のエンターテイメント業界の「声と歌の問題」を解決し、日本のエンターテイメントの力を “声で底上げ” できるよう日々研究・活動しています。

対象とするのは、第一線で活躍するアーティストやアイドル、俳優、声優といったプロのエンターテイナー。身体構造を見極め、声と歌唱能力を最大化させます。

私たちの活動は「ボイストレーニングのレッスンを提供する会社」とお伝えするとわかりやすいかもしれませんが、私たちの提案は少し趣を異にします。

短い言葉では表現が難しい部分もありますので、今回は株式会社ソレナの大崎博之さんのお力をお借りして、音楽業界に属さない方にも活動内容が伝わるよう記事にまとめていただきました。

私たちが課題に感じている、業界の「声と歌の問題」についてお伝えします。

歌手はなぜ、ボイストレーニングを受けるのか?

(大崎さん ※以下略)本日はよろしくお願いします。さっそく素人質問ですが、歌手の方はすでに歌が上手なのに、なぜボイストレーニングを受けるのでしょうか?

ボイストレーニングと聞くと、きっと多くの方が「歌を上手くするため」であったり「高音を出す、音程を安定させる、リズム感を良くするため」のレッスンだったりを想像すると思います。実際にそういった目的のもとに、ボイストレーニングに通うアーティストやアーティストを通わせるレーベル、事務所も多いかと思います。

ただ、Asterisk*projectの先生ともよく話すのですが、「歌が上手」という概念は難しいんです。本来は「アーティストが表現したい作品」が最初にあり、それを実現させる「歌」があります。表現の手段として「高音・音程・リズム」を強化するのであれば良いのですが、最近はその手段が目的化してしまうケースが多いと感じています。

確かに「高音が出る、音程がいい、リズム感がいい」というのは数値化もでき、誰にでもわかりやすい技術(テクニック)の部分です。しかし、その技術(テクニック)にばかり目を奪われ、本来もっとも大切な目的である「作品の魅力」や「アーティストの魅力」を見出す力、味わう力が、観衆だけでなく制作側も弱まっている気がしてなりません。

それこそ、仮に高音が出なかったとしても表現ができているのであれば、それは “歌が下手” とは言えないと思いますし、高音が出るからとい一概に“歌が上手い”とも言えないのではないでしょうか。

自分の音を表現するためではなく、「高音・音程・リズム」の3点に焦点が当たっているということでしょうか。何か原因となる背景が?

背景としては、エンタメ業界全体の技術のクオリティが上がっていること。これが1つの理由だと考えています。マスメディアの主流がラジオだった頃は、聴覚が優先で「歌」がありました。これがテレビ全盛の時代を迎えたことで、歌は聴覚のみならず視覚でも「見る」ものへ変化したのです。

また最近では、MVが音楽表現でも大きな役割を果たすようになり、ダンス&ボーカルグループやアーティストの見せ方も多様な時代となりました。ダンサーとコラボレーションした動画も多く、新しい音楽の言語としてのダンスが、「聴覚で受け取るリズム」以外に「見えるリズム」の役割を果たしている。ダンスに音楽がより「体感」を促す時代になったこともあると思います。

音響や照明の技術も発展したことで、ステージや映像表現の幅も圧倒的に増えました。曲のレコーディングやライブ、コンサートの場面でも音域や音程のバランスを機械で操作できてしまう時代です。またAIの出現により歌も機械で表現できるようになりました。

技術が目に見える世界をダイナミックに表現した時に、本来は目に見えない「感じる部分」を評価することが大切な「作品」や「アーティスト性」への観点が、わかりやすい歌唱テクニックの「高音・音程・リズム」の3点に焦点が当たってしまった。

また、AIの出現により各方面で人間の役割が問われています。これから先の未来を見据えた時、ひとりの人間として自分はどのような表現ができるのか。人間だから可能な、生身の人間だからこそ成し得るパフォーマンスを最大化させる、そんなトレーニングを受けて「声や歌の技術を磨こう」と考えるのは自然な流れだと思います。

観客にしても、やはり「生の声」で聴きたいと思う人は多いですよね。

「ライブに行ったけれど口パクだった」「ほとんどオートチューン(音程の自動補正機械)だった」というのでは、楽しさはあるものの少し共感や共鳴感覚は失われる可能性はありますよね。これに関しては科学的な研究報告もあり、音は耳だけでなく肌で聴くもの、身体で共鳴を体験できるものという論文も出ています。

また声は同じ構造を持つ生身の人間から生まれるため、一体感(共振体験)をより得られやすいという研究もあるんです。ここ数年のパンデミックの影響で、オンラインの体験が増えた私たちは共振体験をかつてなく求めているように感じます。

ただ、同時に大きな懸念もあります。アーティストに対してレーベルや事務所、観客からの期待は増え続ける反面、それを支えるための存在が業界内で不足しているのです。

エンタメ業界の急激な変化に「対応できてない」現実

アーティストを支えるための存在、とは具体的に?

アーティスト、特にミュージカル俳優やアイドルなどを例に出すとわかりやすいと思います。楽曲ごとに歌い分けをして、ダンスをしながら・芝居をしながら歌って。コンサートやTV番組への出演が続くようであれば声のメンテナンスも疎かになる。こうした状況にアーティスト、俳優、アイドルは置かれています。

私はアーティストとアスリートは一緒だと思っているんです。たとえば、プロ野球選手にはコンディションに合わせてアドバイスをくれる指導者(専属トレーナーなど)がいますが、アーティストには適切な指導者がつくことはほとんどありません。その時のコンディションを観察しなから声のメンテナンスをするのは自分しかいない状況です。

また、歌だけに集中するのと「踊りながら歌う」のでは求められる技術が異なります。それにもかかわらず、歌とダンスがバラバラに指導されるケースも少なくありません。

歌のレッスンではできていたのに、

  • 踊るとできない
  • 衣装を着るとできない
  • 表情を変えるとできない
  • マイクを使用すると声が乗らない
  • ロングランのハードな公演で喉が潰れてしまう……

という悩みを何度も目の当たりにしてきました。

ボイストレーナーや歌の指導者の指導範囲(できること・できないこと等)も曖昧なため、クライアント側(レーベルや事務所)も、どこまでをボイストレーナーや歌の指導者にオーダーできるのかわからない、という話も聞きます。

それらの課題に対して業界側は、どのような対応をしているのでしょうか?

アーティストは育てるのではなく、発掘するという考え方が主流になっていると感じます。歌も踊りもできてビジュアルが良く、SNS発信も上手い。そんな素質あるアーティストを探し当てることを優先しているのではないでしょうか。

ただ残念なことに、エンタメ業界から求められるクオリティは年々増しているにもかかわらず、育てることやメンテナンス、フォローアップの支援は十分ではありません。発掘したアーティストが伸び悩み、折角の才能が萎んでしまう時にフォローする手数が格段に少ないのが現状だと思えます。

これではアーティストの現役期間も短くなってしまいますし、業界も将来有望な人たちを永続的に発掘し続けなければいけない状況に追い込まれてしまいます。ただ、こうなってしまったのは誰が悪いというわけではありません。

少なくともエンタメに多くの素養が求められず、「歌は歌、ダンスはダンス、芝居は芝居」など、それぞれのジャンルで役割が分担されていた時代は、1つの特技・技術に特化したアーティストを育成することが重要だったのは間違いありません。

実際、アーティストを育成するための制度自体は整っているはずです。だから今までの業界構造でも十分に発展することができましたし、市場も拡大していった。

ただ現在のように「複数の特技を持つアーティストを育てる」必要がある場合、従来のシステムのままではうまく機能させることが難しい。近年のエンタメ市場の流れはあまりに早く、業界側がアーティストを育て・守るだけの整備が追いついていない。これが実際に起きていることなのだと思います。

アーティストのパフォーマンスを「最大化」させることが私たちのミッション

エンタメ業界がアーティストを発掘するのではなく「育てる」方向に進むためには、何が必要だと考えますか?

声のパフォーマンスを高める存在とメンテナンスができる存在。この2つが「現場」には必要だと考えています。コンサートやライブであれば監督や演出家と一緒に動くクリエイティブチーム、外音(メインスピーカーから出力される観客が聴く音)を作る音響チームなどが「現場」に該当します。

ただ残念なことに、エンタメ業界ではボイストレーナーの役割を「現場でアーティストのパフォーマンスを高め、現場の各セクションとチームの一員として活動し、アーティストの声を適切にメンテナンスもできる存在」とは認識していません。

そこで私たちは、新たな認識のもとで受け入れてもらえるよう「ボイスシンクロナイザー」という造語を作りました。歌とダンス、歌と会場、さまざまな要素をシンクロさせる指導者という意味が込められています。

エンタメ業界の未来を創る、Asterisk*project からの提案

ボイスシンクロナイザーの存在・役割が浸透することで、エンタメ業界はどう変わるとお考えでしょうか?

きく2つの期待があります。1つは、アーティストが表現したいことを最大化させる役割です。「高音・音程・リズム」を磨くことももちろんしっかりアプローチしますが、それだけに終始するのではなく、自分の身体という楽器を十二分に活用して、音源や会場、演出に合わせたパフォーマンスを発揮させる。具体的には、踊りながら歌う、どんな衣装を着ていても歌える、などの多くのサポートができると思っています。

そして2つめが、アーティストが無理をしないよう身体のケアをして、声の酷使による疲労やダメージケアの問題を解消する役割です。ロングラン公演や長期ツアー、長時間のレコーディングといった場面では不可欠な存在になると思っています。

こうした役割がボイスシンクロナイザーにあることが業界に浸透すれば、中長期的に業界を見たときに「アーティストを発掘するだけではなく、アーティストに寄り添い育てる」という方向へシフトさせることができるのではと考えています。

これからの活動が楽しみです。

コンサートやライブへ足を運ぶ観客の皆さんは、生の歌声やダンスによるかけがえのない体験を求めていると思います。そしてアーティスト側もそれにプロとして応えたいと思っている。私たちが果たすべき役割は、アーティストの身体を一人ひとりしっかりと見極め、声を身体からアプローチすることです。

エンタメ業界に対しても「声や歌のための身体の調律・メンテナンス方法」を新しい形で提供し、現場で求められる表現を実現させていく。

その先にアーティストが育つ土壌が生まれ、世界で活躍するアーティストの輩出につながり、果てにはエンタメ業界そのものを変えることもできる。そんな未来を描いています。

大崎さん、本日はインタビューをしていただき、ありがとうございました。

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